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増補新版 イスラームの構造 タウヒード・シャリーア・ウンマ

●多様なるイスラームの最大公約数

タウヒード=イスラームの世界観、シャリーア=イスラームの倫理と法、ウンマ=イスラームの共同体、その三極構造論。イスラームの理想と現実の関係の構造的把握から示す、イスラーム回帰現象の深層。カリフ制が弱体化した時代と不在の時代に、その理念が社会生活でいかに生きられたかを「国家|ウンマ」の社会的二層構造を通して解説。現代の危機をこえる希望のイスラーム論。
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著者 黒田壽郎
書名 イスラームの構造 タウヒード・シャリーア・ウンマ
体裁・価格 四六判上製 384p 本体価格3600円(税別)
刊行 2016年2月
ISBN 978-4-906917-51-8 C0014


●増補について

2004年刊行の初版に、インタビュー「多元的文化への偏見のない関心――井筒俊彦を引き継ぐために」(pp.325-355)、増補新版へのあとがき(pp.361-371)を加え、索引項目を増補改訂し、初版の字句に若干の修正を施した新版。なお、初版収録のインタビュー「イスラーム研究の道程」は文章を大幅に整理した。


●著者紹介

黒田壽郎(くろだ・としお) 1933年生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科卒業、同大学院文学研究科博士課程東洋史専攻修了。カイロ大学客員教授、イラン王立哲学アカデミー教授、国際大学中東研究所初代所長を歴任。著書、『イスラームの心』『イスラームの反体制』など。編著、『イスラーム辞典』など。訳書、コルバン『イスラーム哲学史』(共訳)、イブン・ハズム『鳩の頸飾り』、ガザーリー『哲学者の意図』、バーキルッ=サドル『イスラーム経済論』『イスラーム哲学』、アッ=タバータバーイー『現代イスラーム哲学』(第19回イラン・イスラーム共和国年間最優秀図書賞受賞(2012年))、ハッラーク『イスラーム法理論の歴史』など。


●目 次

序 章

イスラームの三極構造――タウヒード・シャリーア・ウンマの有機的連関
タウヒード/シャリーア/ウンマ/聖典クルアーン

イスラームの社会形成の歴史
預言者ムハンマドと正統カリフの時代/ウマイヤ朝・アッバース朝の時代/為政者とシャリーア/近現代とシャリーア

第一章 タウヒード――イスラームの世界観

タウヒードとは何か
等位性、差異性、関係性の三幅対/権威主義の否定と水平的構造/六信五行/クルアーンとスンナ/タウヒードの言語学的原義

等位性
ユダヤ教との比較/キリスト教(精神・物質二元論)との比較/道徳論ではなく存在論としての平等

差異性
カラーム神学の原子論/モッラー・サドラーの〈存在の優位性〉論/同一律の忌避/差異性のもつ政治的側面/差異性のもつ経済的側面

関係性
アラベスク模様の思想性/人間関係と男女の関係/家族と親子の関係/スピノザ哲学とイスラーム/個人の優位性

第二章 シャリーア――イスラームの倫理と法

シャリーアとは何か
シャリーアの二重構造――意識にとってのシャリーア、公的次元のシャリーア/イスラーム法の史的厚み/シャリーアの成立と展開過程/開かれたシステム/善悪の五つの範疇(義務、推奨、無記、忌避、禁止)

五行(宗教的義務)
信仰告白と礼拝/断食/喜捨/巡礼

社会関係法と私的関係法
社会関係法(ムアーマラート)/私的関係法(アフワール・シャフスィーヤ)/女性の権利と男女の平等観/遺産相続のシステム/刑罰/心性――法で語り尽くしえないもの

第三章 ウンマ――イスラーム共同体

ウンマとは何か
現実のウンマと理想のウンマ/文明の状態を映すスクリーン/ウンマ誕生の背景――ジャーヒリーヤ(無明)時代の状況

理想のウンマ――預言者と正統カリフの時代
民衆とカリフの関係性/〈原理主義〉と〈原点回帰主義〉/理想のイスラーム共同体を挟む二つの反面教師的歴史/ウンマの多層性/民衆の優位性

国家の時代におけるウンマ
為政者とウンマ/国家権力とウンマ――アッバース朝以降/権威と権力の相違に基づく社会構造の二層化

イスラームの都市空間
差異の思想と都市のかたち――中庭式住宅と蜂の巣状の町/四つのタワーイフ――都市をつくる社会的ネットワーク/スーク(市場(バザール))

終 章

西欧化とイスラーム世界/イスラーム世界の自己主張/資本主義に抗する社会/現代中東世界と世界史/世界史の今を映す鏡、パレスティナ

附 録

インタビュー イスラーム研究の道程
インタビュー 多元的文化への偏見のない関心――井筒俊彦を引き継ぐために(聞き手・湯川武)

初版あとがき
増補新版あとがき
索 引


●増補新版刊行の辞(書肆心水)

本書初版刊行時には「タウヒード」「シャリーア」「ウンマ」という言葉を知る人はあまり多くありませんでしたが、それから10年以上が経ち、いまではニュースでそれらの言葉を見聞きすることも珍しくなくなりました。

本書はイスラーム文明の本質を、タウヒード、シャリーア、ウンマの三極構造として解説するものです。タウヒードとはイスラームの世界観、シャリーアとはイスラームの倫理と法、ウンマとはイスラームの共同体です。昨今イスラームへの関心が高まって、シャリーアとウンマはイスラームの基本用語として広く知れられるようになり、タウヒードについても多少は語られるようになってきたようです。しかしこのイスラーム文明理解の三つの柱は、これまでそれぞれ互いに関連づけられることなく、個別的に分析されるだけという状況にとどまっていました。したがってイスラームの本当に固有な点、その力強さが少しも理解されないままできた嫌いがありますが、本書はこれらの三つの極が発する力を組み合わせて考察することでイスラームの構造と力を描き出しています。

一口にイスラームといっても実に多様であるのが現状です。欧米に暮らすイスラーム教徒からターリバーンやイスラーム国まで、また、二大聖地を擁するスンナ派伝統主義のサウディアラビア、力を増す現代シーア派のイスラーム共和国イラン、そして東南アジアにあり最大のイスラーム教徒人口をもつインドネシアまで、違いに目を向ければさまざまな様相があります。その多様なるイスラームの最大公約数がタウヒード、シャリーア、ウンマの三極構造であるというのが本書の主張です。本書は、イスラーム教徒ではない人でもイスラームのリアリティを感じとることができるように、イスラームの理念が具体的な社会関係や制度にいかに現象しているかという点を特にとりあげて論じています。

預言者ムハンマド在世の時代を理想とするイスラームは、失われた理想を回復するというありかたを運命付けられていますが、本書はイスラームの理想と現実の関係を構造的に把握することによって、いま現在その勢いを増しているイスラーム回帰現象のほんとうの意味を、近代化の誤った側面(欧米中心主義)に対する反省の文脈において呈示します。本来のイスラーム社会の別名であるカリフ制は急進主義勢力だけの理想ではなく広くイスラーム教徒に共有されている理想ですが、カリフ制が弱体化した時代と不在の時代に、その理念が社会生活でいかに生きられたかを本書は論じています。そのことによって本書は、イスラーム国問題に代表される現代の危機をこえてイスラームが向うべき道、そしてイスラーム世界と非イスラーム世界のあるべき関係を示唆し、あたらしい文明のありようを提唱しています。